本『「異邦人」の生涯』

 お江戸で暮らすようになって、何をするにも 「待つ」ということが増えたので 
 単行本をハンドバッグに入れて いつも持ち歩くようになりました。

 お陰で 今まで読むことが無かったジャンルの本まで読むようになったのですが
 最近 読んだ中では  『 藤田嗣治 「異邦人」の生涯 』 が 印象に残ります。

d0174983_111192.jpgこの作品で 第34回 大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した 近藤史人氏は 元 NHKのプロデューサーで スペシャル番組を担当していたそうですが、そのせいか ぐいぐい読む人を引き付けていくような話の展開が新鮮です。

伝記的な小説の中には 極端に美化されたり、歪曲した表現がされることがありますが、この本は 綿密な取材をもとにして 可能な限り書き手の感情を加えずに表現され、故意に ドラマチックに描かれていないせいか、読み手の感情移入がしやすい本でした。
 
 実は この本を購入したのは 「国立近代美術館」で開催中の 藤田嗣治展 を見た後なのですが、読み終わった今、美術館に行く前に読むべき本だったと 後悔しています。
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 この絵は 国立近代美術館が「所蔵している」と思っていたのですが、
 厳密には この絵はアメリカの所有で 日本に無期限貸与されているようです。 

 いわば「保管」している状態なので、無条件に一般公開されるということはなく
 今回は 戦後70年に当たるということで 一部公開展示となったのだと思います。

 本の中で 藤田氏がこれらの戦争画を描いたときの経済状況や心理状態などを 
 奥様の証言などを積み重ねて説明されているのを読むと
 フランスで認められながら、日本では認められなかった彼の過去のジレンマを
 推し量ることができます。 
 そして この絵が アメリカに渡った経緯と日本に戻されたきっかけなども
 興味深く読みました。
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 この絵は 今年の5月のクルーズで  秋田美術館に行ったときに見た 嗣治の大作です。

 美術館の説明文に 「平野氏の要請で 信じられないほどの短時間で書き上げた」 と書かれていたのですが
 人に頼まれたのに 何故そんなに早く描き上げる必要があったのだろう と 疑問に思っていました。
 
 本の中では 絵を引き受けるまでの経緯と 秋田の富豪であった平野氏との微妙な力関係、
 また その平野氏の挑発にのり、「世界一の絵」を描くために
 嗣治の発案で 壁画の大きさと共にそのスピードをも競ったのだということが 書かれています。

 また 秋田美術館は パトロンとなった平野氏のバックアップで 「藤田美術館」となる予定だったものを
 平野氏に不審を抱いた嗣治が その申し出を断ったことから、
 両者がすれ違い 実現しなかったということらしく、
 もし、すんなり事が運んでいたら、嗣治の作品が もっとたくさん国内に、とりわけ秋田に
 残っていたに違いないと思うと 少し残念な気もします。
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 そのほかにも 嗣治の十八番である 白い陶器のような肌の色について
 修復された際に発見されたキャンバス自体への細工など
 嗣治が秘密にしていたために 今までわからなかったノウハウなども。

 読後に強く感じたことは
 いまでも海外で認められても 日本で認められず 苦労している芸術家は多いと思いますが
 できれば 派閥や系列などを越え 広くて大きな視野に立って 寛容に受け入れる日本であって欲しいということでした。

 その作品は有名であっても 描いた画家とその背景を知る本を読むことはなかったので
 長々と感想を書いてしまいました。
by saint-arrow-mam | 2015-11-28 15:59 |   映画・本 | Trackback | Comments(4)
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Commented by TanMatsui at 2015-11-28 17:15
詳細な書籍の読後感想を拝見、自身で読んだ心境になりました。
私の書籍の紹介的なブログとは大違い クスン! (笑)

本日は前任校の研究会に招待され、先程帰宅しました。さほどの準備を
したわけではありませんが、気分的にバタバタし、
昨日来 shinmasma様のブログは読み逃げで失礼。

今日の研究会の様子 (写真だけ 笑) を明日のブログで紹介、
そして帰省してきます。
Commented by okadatoshi at 2015-11-28 19:28
今年の6月に同窓会で帰省したときに藤田氏の巡回展を博物館で見ました。
同道した友人も美術には一言いうようになって話が弾みました。
貿易関係の仕事をしている従兄がパリに滞在中に藤田氏のデッサンを2枚入手。
自宅に無造作に掛けています。
乳白色の色は確かシッカロールで作っていたのでしたっけ。
晩年の作品は、童話の挿絵のような小品を大量に描いてますね。
もう大作は描けなくなったのかもしれません。
フランス国籍を取得した心理には諦観のようなものを日本の画壇に対して感じたのでしょうか。
Commented by shinmama at 2015-11-28 21:14 x
Hiro様

私も 来週は 長時間の臨託が続きそうなので
今のうちにと思い、あれこれ雑用に追われています。
パソコンの前に座っていても するべきことを思い出しては
バタバタとしてしまい どうも落ち着きません。

寒い日に スタバでフーフーと熱いコーヒーを飲みながら本を読む、
そんな有閑マダムに憧れてはいますが、
私の読書スタイルは いつも何かの待ち時間に立って読んでいることが多く
ガリ勉風です。(笑)

明日は ご実家にお帰りですね。
初冬の山越え、道中くれぐれもお気をつけて。  
Commented by shinmama at 2015-11-28 21:39 x
okadatoshi様

>フランス国籍を取得した心理には諦観のようなものを日本の画壇に対して感じた

本によると 戦争責任を巡って 日本の画壇とのさまざまな軋轢(あつれき)があり、
そのために日本を離れたのに、フランスまで日本の画壇がきて 作品を中傷し、おとしめようとしたことが
具体的に書かれていて おっしゃる通りだと思います。

読んでいくうちに 声楽家の吉田氏のおっしゃることと重なる部分が何度かあり、
美術界だけでなく音楽の世界でも、そして医学や科学の世界でも、、、
同じなのでしょうね。


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